VirtualReality酔い
渡邊隆弘

VR酔いとは・・・

現在バーチャルリアリティの技術は、医療、建築、アミューズメント施設などさまざまな分野に
用いられている。これによりストレス緩和、作業効率の向上、仮想現実空間の体験など数多く
の効果や楽しみが得られる。バーチャルリアリティ技術を用いたものは、大きく分けて企業や
研究所などで実験や練習に用いられる訓練用VRとアミューズメント施設や博物館などで誰でも
利用することができる一般人用VRとに分けられる。前者は専門家や技術者が現実では危険で
あったり、莫大な費用を必要とする訓練や単純なデスクトップモニターや紙のデザインを見るだ
けでは把握しにくい空間の広がりをつかむことが目的であり、利用者は限られるため、安全面
はもちろん重要だが、実際の世界により近い精密な世界を作り出すことに重点を置くことがで
きる。一方、後者は作られた仮想空間を楽しむことが目的であり、現実世界に近づけるという
よりはむしろスリルのあるものを求める傾向にあり、画像や動きが多少現実よりも激しかった
りする。しかも、これは一般の人が利用できる施設に置かれているため、利用者の層が広い
ので誰が使っても安全であることが第一に求められる。

 安全面に関連して、現在バーチャルリアリティを用いたシミュレータやゲームを利用した際に
車酔いにも似たような症状が見られるという問題がある。このことにより、集中力が低下した
り、ストレスを感じたりして、作業の効率が著しく下がり、健康を害したりするなどの影響が出て
いる。それを感覚面でのVR酔いという。さらに、あまりに利用者が夢中になってしまうことで、
現実とバーチャルリアリティの世界との区別がつかなくなってしまうといったことが起こってい
る。これもある種感情面でのVR酔いといえるものである。

 1.感覚面におけるVR酔い

症状は・・・

顔面蒼白、冷や汗、頭痛、唾液分泌の増加、悪心、吐き気、嘔吐、眼精疲労、近視化などが
あげられる。VR酔いの予兆としてあくび、眠気、嫌気、疲労感などがある。

原因は・・・

現段階でははっきりとした原因は特定できていないが、VR酔いの原因はひとつではなく、上下
の動き、視野角、常識から少しずれた違和感などさまざまな要因が重なり合って生じていると
考えられており、主に前庭器官、視覚、体性感覚、中枢が関与していると考えられている。
(注. 訓練用VRと一般用VRでは用途や作られる目的が異なるため、おそらく全く同じ原因があ
てはまるわけではない)

*前庭器官 平衡感覚のある内耳の一部。内耳には前庭迷路受容器があり、その中に平行
受容器である三半規管と耳石器がある。三半規管は回転角速度を、耳石器は直接加速度を
感知する。

   

*視覚 酔いの発生において、視覚の影響は大きいが、なくても発生する。逆に視覚のみで発
生もするし、視覚により酔いが軽減されることもある。身体と同方向への回転視野、急激な変
化あるいは大画面での視運動刺激、身体への動揺と視覚情報の不一致などは酔いの原因と
されている。広範囲に情報を与える動きのある映像は自己運動知覚(自分が動いているような
錯覚)を生じさせ、酔いが起こりやすい。

*中枢 平行の保持と円滑な運動制御には小脳が関与する。前庭・平行系に末梢末端感覚
器の情報は小脳に集められ、大脳皮質と連携をとりながらさまざまな反射により身体の平衡を
保ったり、運動を制御している。また、大脳皮質が主に関与するといわれている心理的要因
は、受容性(刺激の強さの受け止め方)、適応性(感覚再調整の速さ)、保持性(動環境経験の
「記憶」)、でありこれらによって酔いの感受性が決定すると考えられている。

  

*時間遅れ

時間遅れとは、利用者が動いたのをセンサーが感知し、センサーの計測結果からコンピュータ
が映像を計算しなおし、再度映像を表示し終えるまでの時間のことで、この時間遅れのために
使用者の運動指令、運動感覚と視覚に得られるディスプレーに映し出された映像との間にズ
レが生じるため、脳が混乱してしまい酔いが生じる。

*記憶された感覚との不一致

 利用者の過去の経験によって記憶された感覚情報(前庭、視覚、体性感覚)の組み合わせと
実際の感覚情報が比較され、利用者の記憶によって予期されるものと異なる組み合わせの感
覚情報が入力されるため、脳が混乱してしまい酔いが生じる。

*運動感覚の欠如

普段の環境では、私たちの感覚システムは機械の一片のように規律よく調律されて働いてい
る。見た目にはいとも簡単にバランスを崩さずまっすぐ歩くことができているが、これは私たち
のもつさまざまな感覚のメカニズムと筋肉との精密な関係によって達成されている。これらのさ
まざまな手がかりを変更したり、結びつきを変えたり、除いてしまったりしたときに強い違和感
があったり、目が疲れたり、めまい、頭痛、吐き気等の症状があらわれたりする。だから、仮想
現実という視覚、聴覚(場合によっては触覚)のみの手がかりに基ついて再現された3次元の
環境に人間を閉じ込めると、身体の運動感覚の欠如から自分の動きをうまくコントロールしにく
くなり、間違えやすくなり、動きががたがたしてしまう。その結果、酔いが生じる。

2.感情面におけるVR酔い

 

現在、シミュレーションゲームやアミューズメントのバーチャルリアリティ技術はますます発展
し、よりリアルに、より複雑に、そしてより利用者が楽しむことができるように開発されている。
この高度な技術を駆使したバーチャルリアリティという仮想現実世界の中に没入しすぎて、現
実と仮想現実との区別がつかなくなってしまう者が現れるようになってきた。これもある種のVR
酔いといっていいのではないだろうか。これは行き過ぎてしまうと、犯罪や社会問題に発展して
しまうこともありうる。以前、フライトシミュレータゲームに夢中になり、「現実世界でも自分は操
縦できる、やってみたい」といった幻想が生まれてしまい、本物の飛行機をハイジャックして運
転しようとしてしまったという事件があった。これはまさに現実と仮想現実とが混乱してしまって
引き起こされた事件の典型ではないだろうか。また、「ゲーム上のキャラクターは自分を裏切る
ことはない」、「自分の理想とする相手が簡単に見つかる」といった理由で恋愛シミュレーション
ゲームに夢中になる若者も現れている。こういったフライト、恋愛などのシミュレーションだけで
なく最近ではさまざまなシミュレーションが開発されている。それらを体験することで現実世界で
はうまくいかないことやできないことを仮想現実の中で実現することにより欲求を満たすことが
身近にそして簡単にできるようになってきた。そして、複雑でうまくいかない現実世界から離れ
自分の思いどおりに物事が進められる場所に没入していき、自分の殻に閉じこもってしまうと
いったことが起こりうるのではないだろうか。その結果、現実世界に興味を示さなくなったり、現
実と仮想現実との区別がつかなくなってしまうといったことが起こるのではないだろうか。いず
れにしても、こうした自分の思い通りに行く世界にばかり閉じこもってしまうということは現実社
会へ適応する能力に支障をきたす恐れもあるので注意が必要である。

 もちろんこれらのシミュレーションは現実で体験することのできないことを体験し、楽しむこと
ができるすばらしいものである。こういったVR酔いを起こさないためにも利用者は「これは作ら
れた世界であり、偽物の世界なのだ」ということをしっかりと認識した上での利用が必要となる
だろう。こうしたことに注意して利用する限りでは、バーチャルリアリティ技術というのは非常に
優れた技術であると思う。

参考文献 日高 俊明 『VR革命』、オーム社開発局、2000年、37頁

 S.オークスタカルニス/D.ブラットナー 『シリコンミラージュ』、1994年、286‐288頁  

 バリー・シャーマン/フィル・ジャドキンス 『これがバーチャルリアリティの世界だ』、徳間書店、
1993年、270‐290頁  


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